未払いの残業代がある場合、当然に、会社に対して請求する権利があります。残業代を含む「賃金」を支払わないという行為は違法であり、期日に支払ってくれないときは即座に「残業代を支払ってください」と主張して問題ありません。
ただ、現実問題そう上手くはいきません。違法であるにもかかわらず従業員の主張を聞かず残業代を支払わなかったり、不利益な処分を下したりするケースもあるのです。
そこで当記事では「残業代の請求をするタイミング」に着目して、請求を行う方が注意しておきたい点などを紹介していきます。
退職前に残業代を請求する場合、「早めに賃金を回収できる」「請求権が時効で消滅する心配がない」「証拠を集めやすい」などのメリットが得られます。
特にポイントとなるのが証拠収集です。
会社側が支払いに応じてくれなさそうな場合、証拠を提示して「確かに支払うべき残業代が発生している」という事実を客観的に示さないといけません。手段はいろいろありますが対立関係がいつまでも続いた場合、最終的には裁判所で争うこととなります。そのときは証拠を用いて裁判官に未払い残業代があると認定してもらわないといけないのです。
そこで例えば次のようなデータ・資料を備えておくことが大事です。
退職後でも未払い賃金の請求をすることは可能ですが、これらの証拠を退職後に集めるのは難しいと思われます。
退職前の請求だと、職場で証拠集めができるという利点がありますが、他方で「請求をしたことで不利益な扱いを受ける」などの問題が起こり得ます。
もちろん、会社側は支払っていない賃金に関して請求を受けたからといって従業員に不利益な処分を下したりしてはいけません。にもかかわらず支払いに応じず、話し合いにも対応せず、退職勧奨を行うケースさえあるのです。
このようにわかりやすく不利益を被ることもあれば、人間関係の悪化など、違法行為を受けていることが対外的に示しづらい報復を受けるケースもあります。そのため、退職前の残業代請求を行うことで「職場に居づらくなるかもしれない」という可能性は考慮しておきたいところです。
次に、退職後に残業代を請求するケースを考えてみます。
この場合には「請求後の働き方について心配する必要がない」というメリットがあります。会社との関係がぎくしゃくして働きにくくなるなどの問題に悩むことがありません。精神的には少し楽に臨むことができるでしょう。
退職後の請求を検討している方は「証拠集めが大変になる」「請求権が時効消滅するかもしれない」という点に注意してください。
上述の通り残業代の支払いに会社が応じてくれないときは証拠を示さないといけません。その証拠の多くは会社に保管されており、退職をした後だと各種データ・資料を集めるのが容易ではありません。すでに在籍していないのをいいことにデータを改ざんされるおそれもあります。
また、証拠を確保できたとしても残業代を請求できる本来の時期から数年が経過していると、時効によりその請求権が消滅してしまうおそれがあります。原則として“5年間”が消滅時効の期間であると法定されていますが、現状、経過措置として“3年間”が消滅時効の期間として運用されています。
「退職するタイミングまで請求はやめておこう」などと長期間放置していると請求権そのものが主張できなくなってしまうため、支払われなかったタイミングから3年以内には請求を行うようにしましょう。
以上を考慮すれば「退職を検討していないのなら早い時期」、「退職を検討しているのなら退職の直前または直後」に請求をするのが良いと考えられます。
いずれにしろ消滅時効が完成しないようにすること、および証拠確保を早めに進めておくことがポイントです。退職をするにしても退職前から証拠を集める作業に取り掛かり、退職を申し出る直前あるいはその直後に請求を行うとリスクが抑えられます。
残業代が支払われていないことに気が付いたときは、早めに対処しましょう。ご自身1人で悩まず各所機関を頼ると良いです。
例えば「労働基準監督署」「弁護士」などが活用できます。
労働基準監督署(労基署)は職場環境の改善に向けて会社に対し指導などをしてくれる機関で、違法に賃金を支払わないなどの問題があるときは労基署に相談してみると問題が解決されるかもしれません。
ただし、労基署による指導は労働法に準拠した職場環境の実現を主目的としており、被害を受けた者に対する個人的な救済をしてくれる機関ではありません。
そこで「残業代を支払ってほしい」という直接的な解決を図るには弁護士への相談と依頼が効果的です。支払いに向けての交渉を弁護士に任せられますし、弁護士が間に入れば会社にも本気度が伝わって、話し合いにも応じてくれやすくなります。
もし裁判まで紛争が続いてしまったとしても、弁護士なら従業員の方個人の味方として継続的にサポート・代行をすることができます。