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雇用契約書に残業代の記載がなくても請求できる! 残業代についての基本的なルールについて

残業代請求

基本給の金額については各社が定めていますが、残業代の有無は自由に設定できません。一定の場合は残業代の支払い義務が生じると法律で定められているからです。雇用契約書や就業規則に規定がない場合でも同じです。
ただし働き方によっては例外的に残業代が発生しないこともあるため要注意です。

 

雇用契約書の役割

雇用契約書は、会社と従業員となる方が労働に関するルールを定め、互いに合意したことを証明するための書類です。契約書一般にいえることですが、実務上取り交わされることが多いものの基本的に契約書の作成は必須ではありません。契約書がなくても法的には有効に契約を成立させることが可能で、あくまで証拠を残すために書類を作っているに過ぎません。

※雇用契約書とは別に「労働条件通知書」という書類もある。こちらは法令上作成が必須。

ただ、いったん契約で定めたルールについては各当事者が従わないといけません。これに反した行為があったとき、契約書を示して「ここで約束しましたよね」とその権利を主張することができます。

 

どの会社にも労働基準法が適用される

契約は当事者間で自由に定められるものですが、雇用契約に関しては従業員の立場を守るために法令で一部規制されています。労働に関するさまざまな法令がありますが、そのうちのもっとも基本的な法律が「労働基準法」です。

労働基準法は従業員を雇用するすべての事業者に適用され、同法では最低限の労働条件が規定されています。そこで雇用契約で定めたとしても、同法の基準を下回る条件で働かせることはできません。

 

残業代の発生は法律で決められている

労働基準法で定められているルールの1つに「残業代の発生」が挙げられます。

 

“労働時間を延長し、又は休日に労働させた場合においては、その時間又はその日の労働については、通常の労働時間又は労働日の賃金の計算額の二割五分以上五割以下の範囲内でそれぞれ政令で定める率以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。”

引用:労働基準法第37条第1項

 

そこで「雇用契約書に残業代について書いていないから残業代は発生しない」という主張は通りません。雇用契約書への記載の有無問わず残業代は発生するものなのです。

また、残業代が発生するかどうかだけでなく本来の賃金より割増で支払わないといけない旨も上の条文で定められています。

 

雇用契約書や就業規則より優先される

雇用契約書に記載がないだけでなく、雇用契約書で「残業代は発生しない」とするルールが明記されていたとしましょう。

このルールを含めた雇用契約についてサインしていると、会社側が「残業代が発生しないことについて合意しているから支払わない」と主張してくる可能性もあります。しかしながら、従業員側がしっかりと認識しながら合意をしていても、労働基準法に反することはできません。

仮に就業規則で同様のルールが定められていたとしても、労働基準法に従い残業代は発生します。

 

労働基準法を上回る水準については契約等に従う

労働基準法に反する労働条件を定めてもそれは無効となりますが、逆に同法の水準を上回るルールについては有効です。

残業代の割増率を法定のものより大きく定める、最低賃金を大きく上回る時給を定めるなど、その他労働に関して高い水準を契約で定めていればそのまま有効なルールとして機能します。もしルール通りの運用がなされていなければ、従業員が「労働基準法に定められている最低水準ではなく、契約内容に沿った賃金を支払いなさい」と主張できます。

 

例外的に残業代が発生しないケース

「法定されている労働時間を超えて働いたときは残業代が発生する」が原則ですが、例外もあります。例えば次のケースに該当するときは残業代の請求ができなくなりますので、働き方にも着目して残業代の有無を判定することが大事です。

 

みなし労働時間制の適用

労働基準法では、労働時間の算定が難しい働き方をしているとき、例外的に「一定の時間を労働したものとみなす」とする制度も採用している。これは「みなし労働時間制」と呼ばれる制度で、例えば次のように正確な労働時間の算定が難しいケースでよく適用される。

・外回りをしている営業職

・本人の裁量に任せて働かせた方が良い専門的職種

みなし労働時間制が採用されていると、一定の時間を働いたものとみなされて残業代が発生しなくなることもある。

※常に発生しないわけではなく、一定の時間を超えて働くと残業代は発生する。

固定残業代制の適用

「固定残業代制」とは、はじめから一定の時間残業を行うものと想定して、毎月の給料に一定額を加算する制度のこと。そのため定められた時間に達するまでは追加で賃金が支払われることはない。

※固定残業時間を超過すると残業代が発生する。

管理監督者による労働

従業員の指導や監督を行う立場にある者であって、重要な職務を負っている・重要な権限を持っている・労働時間が厳格に管理されていない・立場相応の賃金が支払われている、などの条件を満たせば「管理監督者」となる。

管理監督者については労働基準法の規制が緩和され、残業代も発生しない。

※肩書で判断するのではなく実質の働き方に着目する。例えば「店長」になったからといって常に残業代が発生しなくなるわけではない。

 

残業代の発生、その金額については個別に判断する必要がありますので、労働問題に強い専門家に相談することをおすすめします。ご自身の状況を伝え、残業代が発生するのかどうか、そしていくら請求する権利があるのかを確認しましょう。弁護士であればその後の請求・交渉について代行することも可能です。