職場でのパワハラやセクハラ、マタハラ、パタハラについては、企業が対策を取らなくてはなりません。これは「そうした方が良い」という問題ではなく、「法律上の義務」とされています。
当記事では企業に課されている義務の内容を解説していきますが、そのためにも各種ハラスメントの定義を押さえておく必要があります。
昨今、ハラスメントが社会問題として取りざたされるケースが増えており、厚生労働省のする調査でもパワハラを受けたことがあると回答した方が全国に数万以上存在していることが明らかになっています。
そこでパワハラを筆頭に各種ハラスメントへの対策が具体的に進められ、法整備によって企業にも特定の措置を講ずる義務が課されるに至っております。特に対応が必要なハラスメントは次の3種です。
パワハラ (パワーハラスメント) | 優越的な関係性を逆手に取って行う言動のうち、業務上必要な範囲・相当な範囲を超えており、就業環境が害されるもののこと。 |
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セクハラ (セクシュアルハラスメント) | 労働者の意に反して行われる性的な言動であって、就業環境が害されるもの、あるいはその言動への対応によって不利益を受けるもののこと。 |
マタハラ、パタハラ (妊娠および出産、育児休業などについてのハラスメント) | 妊娠や出産、育児休業の利用についての言動のうち、労働者の就業環境が害されるものこと。 |
それぞれについて、より詳細に定義を解説していきます。
パワハラ(パワーハラスメント)に該当するかどうかは、①職場で発生すること、②優越的な関係を背景とすること、③業務上必要な範囲・相当な範囲を超えていること、④就業環境が害されるものであること、の4つの要件から判定することができます。
① | 職場とは | 企業が雇っている労働者が業務を行う場所のこと。 労働者が普段勤務している場所以外でも業務を遂行する所であれば「職場」に含まれるため、出張先や接待の場などもこれに該当する。 勤務時間外の懇親の場、通勤中でも職務の延長と評価できる場合は「職場」にあたる。 |
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② | 優越的な関係とは | 抵抗や拒否が現実的に難しい関係性にあること。例えば上司・部下の関係性など。あるいは同僚や部下などであっても、集団による行為であって抵抗・拒絶が事実状困難である場合も含まれる。 |
③ | 業務上必要な範囲・相当な範囲を超えるとは | 明らかに業務に必要がない、あるいはその手段等が相当ではないこと。 言動の目的、業種・業態、業務内容、言動の頻度・継続性、労働者の問題行動など、様々な事情を考慮して評価する必要がある。 ※問題行動があったとしても人格否定などは認められない。 |
④ | 就業環境が害されるとは | 言動によって身体的精神的な苦痛を受け、能力の発揮が妨げられる場合などのこと。労働者の主観のみに寄るのではなく「社会一般の労働者に看過できないほどの支障が発生するかどうか」を基準とする。 継続性も評価に影響するが、強い苦痛である場合は1回の言動でも就業環境を害すると評価され得る。 |
なお、その他ハラスメントにも共通しますが、ここでいう「労働者」とはいわゆる正社員だけが該当するわけではありません。契約社員や派遣社員、パート、アルバイトなどの従業員もすべて含んでいます。
セクハラ(セクシュアルハラスメント)の該当性においても、職場で発生することを前提とします。その上で労働者の意に反して行われる①性的な言動があったこと、②就業環境が害されるあるいは不利益を受けることを要件としています。
「性的な言動」とは、性的な内容を含む発言や行動のことです。性的な事実関係について尋ねることや、性的な内容の噂を流すこと、冗談やからかいなども含まれます。執拗に食事に誘うことも「性的な言動」に含まれることがあります。
男性・女性問わず行為者になり得ること、言動の対象が異性であるか同性であるか、被害者の性自認なども関係なく「性的な言動」に該当し得ることに留意しましょう。
なお、性的な言動そのものによって就業環境が害される場合のセクハラは「環境型」に分類され、性的な言動への対応によって不利益を受ける場合のセクハラは「対価型」に分類されます。
一般に「マタハラ」や「パタハラ」と呼ばれるハラスメントにも対策が必要です。
妊娠や出産をしたことを伝えると嫌がらせを受けた、育児休業を取得しようとしたら解雇をされた、といった場合に該当することがあります。
ただし、安全配慮等のため、必要に応じて業務分担をした場合などにはハラスメントにあたりません。この場面における「業務上の必要性」については慎重に判断する必要があります。
「休まれると業務が回らない」という理由だけで休業をさせない場合はハラスメントにあたる可能性が高いですが、少し日時を調整してもらうことの申し入れを出す、確認を取る程度であればハラスメントにあたりません。
なお、このときのハラスメントにも「制度等の利用への嫌がらせ型」「状態への嫌がらせ型」の2つの分類があります。
各種ハラスメントの発生を防ぐため、企業は次に挙げる予防策を講じなくてはなりません。
また、次の挙げる取り組みについては絶対的に必要とされる義務ではありませんが、法律上取ることが望ましいとされています。
各種ハラスメントを一元的に取り扱う相談窓口の整備 | 各種ハラスメントはそれぞれ独立に発生するとは限らず、複合的に発生することも多い。そこですべてのハラスメントについてまとめて対応できる体制を整えることが大事。 |
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ハラスメントの原因を解消するための取り組み | ハラスメントの原因を取り除く、その背景にある要因を解消することを目指す。そこで、ハラスメントに関する研修を受けさせる、コミュニケーションを活性化させるなど、環境改善に向けて活動を行う。 |
労働者や労働組合にも参画してもらう | ハラスメント対策を講じるとき、必要に応じて労働者や労働組合にも参加してもらう。アンケートを実施したり意見交換会の場を設けたりすることで、現状把握や運用状況を把握し、体制の見直しなどに活かす。 |
被害者が出るのを防ぐことはもちろん、企業の社会的信用度を高めるためや評判を良くして優秀な人材を獲得するためにも、ハラスメント対策はとても大事なことです。対応に困ったときは労働問題に詳しい弁護士も頼ると良いでしょう。