労働関連のルールはここ数年間で改正が相次いでおり、その1つに「同一労働同一賃金」に関わる改正も含まれています。そこで不合理な待遇格差を設けてはいけない、というルールに企業は従う必要があります。
待遇格差は従業員間の不満を高め、さまざまなトラブルを引き起こす要因でもありますので、今一度待遇について見直しておきましょう。
待遇格差があることで、従業員から訴えを提起されることもあれば、職場環境が悪化してしまうこともあります。問題が改善されないと退職者が続出するなどの問題も発生してしまうでしょう。
手当や休暇等に関して、正社員には付与する一方で契約社員などには付与しない、といった待遇格差を設けている企業もいます。しかしこのような待遇格差があると、従業員から「不当だ」と訴えを提起される危険性があります。
実際、扶養手当や年末年始の勤務手当、夏季休暇などを付与されなかったことを理由に訴えを提起された例がいくつもあります。そしてその格差が「不合理である」とする判決が下されることも珍しくありません。
一般的な訴訟だと手続が煩雑でなかなかハードルが高いですが、労使間の紛争においては簡易迅速に解決を目指す制度も設けられており、従業員側が不満を主張しやすい環境が整っています。
待遇格差が大きすぎたり不合理に差が付けられていたりすると、不遇な扱いを受けている従業員には不満がたまります。
訴訟を提起するまでには至らなくても、社内で是正を求める主張が寄せられたり、口論が起こったりすることもあります。
企業側も誠実な対応を取らなければ雰囲気は悪化し続け、優遇されている従業員としても働きづらくなってしまいます。直接的な損失が発生しなくても、こうした職場環境の悪化は従業員によるパフォーマンスを低下させてしまい、結局のところ企業にも良くない影響を与えるおそれがあります。
待遇格差があると従業員の満足度も下がってしまい、長くここで勤めようという意欲もそがれてしまいます。
結果、人材を維持することができず、頻繁に人が入れ替わる状態になってしまいます。人材獲得にもコストがかかりますし、ノウハウも蓄積されず能率も落ちてしまいます。
また退職割合が高いと、対外的にも「あの企業は人が辞めてばっかりだ」と良くない印象を持たれるリスクがあります。このような社会的評価の下落は優秀な人材の獲得を阻害する原因でもあります。
基本給やボーナス、通勤手当や単身赴任手当などの諸手当、福利厚生などに関して、従業員間で不合理に格差を設けてはいけません。このルールは日本のすべての企業に適用されます。
ただ、全従業員を同じ条件にする必要はなく、合理的な理由があれば差を付けても問題はありません。問題となるのは、①同じ職務内容で、②同じように転勤や配置変更などの可能性もあるのに、待遇に差が付いているという場合です。
各社、法的に不合理と評価されるような差を付けていないかどうかを①と②の観点からチェックしておきましょう。
「職務内容が同じかどうか」に着目してみましょう。
この同一性に関しては、次の3点を順に評価していき、判断します。
職務内容の同一性の判断方法 | |
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職種 | 同じ企業内でも「事務職」「製造工」「販売職」など職種が分かれることがある。 この職種が異なるなら、職務内容の同一性は否定される。 |
従事する中核的業務 | 職種が同じ販売職であったとしても、「接客」「品出し」「レジ打ち」「クレーム処理」「発注」など様々な業務がある。 各従業員に与えられた主な業務(中核的業務)を比べて実質的に同じとはいえないのなら、職務内容の同一性は否定される。 パートも正社員も、大半の時間を同じレジ打ちや接客に対応しているのなら職務が異なるとは言い難い。 |
責任の程度 | 職種、中核的業務が同じ場合でも、責任の重さが著しく異なるのなら職務内容の同一性は否定される。 与えられた権限、求められる役割、緊急時の対応などを総合的に判断する。 責任の程度に差があっても、著しく異なるとまでいえないときは職務内容が同じと評価される。 |
「転勤や職務内容の変更、配置の変更の可能性が同等かどうか」にも着目します。
この同一性に関しては、次の4点を評価していきます。
職務内容の同一性の判断方法 | |
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転勤の有無 | 転勤の有無が一方にのみ認められる場合は人材活用が異なると評価される。 |
転勤の範囲 | 転勤の可能性がどちらにもある場合、その範囲を比較し、「実質的に同じ」と言えない場合、人材活用は異なると評価される。 |
職務内容や配置の変更の有無 | 職務内容や配置が変更される可能性が一方にのみ認められる場合は、人材活用が異なると評価される。 |
職務内容や配置の変更の範囲 | 職務内容や配置が変更される可能性がどちらにもある場合、その範囲を比較し、「実質的に同じ」と言えない場合、人材活用は異なると評価される。 |
つまり、比較されている従業員間でともに転勤や職務内容等の変更が「ない」場合は、同一性が認められます。
転勤や職務内容等の変更がどちらにも「ある」場合は、さらにその範囲についても比べて、実質的に同じといえるときに同一性が認められます。
待遇格差を設けることが正当であっても、企業側にはその説明義務が課されます。
パートや契約社員などの雇用に際しても待遇に関する説明をしないといけませんし、待遇差についての説明を求められたときは、その内容や理由、待遇決定における考慮次項などを説明しないといけません。
そのうえで、説明を求めた従業員への不利益な取り扱いも法律上禁止されています。
説明の仕方にも配慮が必要です。簡単な書面を作成して概要だけを伝えるのではなく、説明を求めている本人が理解できるよう、資料を活用して口頭で説明するなどの対応を取るべきと考えられています。
このときのやり取りがきっかけで関係性が悪化してしまうおそれもありますので、丁寧な対応を心がけましょう。