一定の場合、企業は従業員に対して人事異動や出向、転勤の命令を出すことができます。しかしこれらは従業員に大きな負担をかけるものであり、私生活にも影響を与えることがあるため、トラブルを招くおそれも秘めています。
企業としてはどのようなトラブルが起こり得るのかを把握しておくことが重要です。そして、法令に則った適切な準備をしておくこと、その上で命令を出すときに配慮すべき事柄についても知っておくべきです。
当記事で①人事異動、②出向、③転勤について言及していきますので、ぜひ参考にしてください。
従業員の地位の変更、勤務内容の変更などをまとめて「人事異動」と呼びます。
人事異動をめぐってトラブルが起こることもあります。例えば次のようなケースでそのリスクは高まります。
人事異動を行う企業としては、まず就業規則の内容や個別に交わした雇用契約の内容をチェックすべきです。定めたルール、個別に交わした約束に反する人事異動は無効になる可能性が高いためです。そのため人事異動を命じることが予測できているのであれば、あらかじめ就業規則や雇用契約にその内容を反映させておくべきです。
また、従業員やその家族への配慮も欠いてはいけません。「ルールがあるから」「契約したから」という言い分があるからといって何でも命じられるわけではありません。ルールがあっても従業員が受ける不利益の程度によっては人事異動が無効になることもあるのです。そこで人事異動に伴い手当を支給したり昇給したり、負担を軽減するだけの配慮を考えるべきです。
そのうえで、もし人事異動を拒否されたときは次の対応を検討しましょう。
従業員との雇用契約は継続しつつ、出向先の指揮に従い就労することを命じる「出向」があります。出向は従業員が受ける影響が大きいことから揉めるリスクも高くなると考えられます。
そこで慎重に検討を進めなければならず、仮に就業規則に出向の定めを置いていたとしてもそれだけで命令の有効性が担保されるわけではありません。労働契約法でも出向に関して次のように規律しています。
(出向)
第十四条 使用者が労働者に出向を命ずることができる場合において、当該出向の命令が、その必要性、対象労働者の選定に係る事情その他の事情に照らして、その権利を濫用したものと認められる場合には、当該命令は、無効とする。
つまり就業規則の定めにより出向を命じる権利が企業にあったとしても、さまざまな事情を考慮して権利を行使しなければ、権利濫用であるとしてその命令は無効になってしまうのです。
業務上の必要性や人選の合理性がない、あるいはその説明なく出向を命じると、従業員も納得はできません。トラブルになる可能性が高くなります。そして人選の合理性がないときやその目的が自主退職してもらうことにあるときは権利濫用にあたり無効となることがあります。
出向を命じるには、少なくともルールがきちんと定めておくようにしましょう。就業規則に定める、または「出向規程」などと出向に関するルールをまとめた社内規程を設けることも検討します。
《 出向規程に記載する内容例 》
単に「出向を命じることがある」と明記するのではなく、企業側が果たすべき義務や出向期間や復職事由などの制限についても明記しておくと従業員側も安心できます。
そのうえで、トラブルが起こらないようにするため極力個別の同意を得ておくべきです。
「転勤」は出向などと比べても比較的広く行われており、多数の事業所を持つ規模の大きな企業であれば毎年のように転勤が発生することもあるでしょう。しかし転勤は従業員の私生活にも直接的な影響を与えるため、トラブルになりやすいです。
例えば次のような理由で転勤を拒否されることも考えられます。
転勤に関してもやはり下準備として就業規則に定めを置くか、個別の同意を得ておくべきです。
もし雇用契約時に「勤務地は〇〇本店に限る」「職種は〇〇に限る」など、限定する規定が置かれていると、企業側が転勤を強いることはできません。そのため就業規則の内容などを一度見直しておくべきです。
そして業務上の必要性があることの説明を行いましょう。もし必要性がない、あるいは従業員の負う負担が特に大きな場合は、権利濫用として無効になる可能性がありますので注意が必要です。
また、転勤に関しても手当の支給などを検討するとトラブルは避けやすくなります。引っ越し費用の負担はもちろん、転勤先での住居の補助なども行うと従業員からの納得が得やすくなります。