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就業規則の作成方法や注意点~テンプレートを使って解説~

不当解雇

就業規則は、常時10人以上雇用する事業所で作成が義務付けられています。規則の内容については労働基準法に反しない範囲で各社自由に決めることができますが、特に重要な特定の事項については就業規則に記載することが義務付けられています。

そこで、少なくとも記載が義務付けられている事項については把握しておくことが必要です。ここでテンプレートも載せてその記載方法を紹介しますので、参考にしてください。

 

就業規則に記載する内容

就業規則への記載事項については、①絶対的必要記載事項と②相対的必要記載事項の2種類があります。

①に該当する規則については次の3つに分類され、就業規則の作成が必要になるとき、必ず定めて明記しないといけません。

 

就業規則の絶対的必要記載事項

労働時間のこと

・始業時刻

・休憩時間

・終業時刻

・休日や休暇

・(労働者を2組以上で交替勤務させるときは)就業時転換に関すること

賃金のこと

・賃金の額や計算方法

・賃金の支払い方法

・賃金の締日や支払い時期

・昇給に関すること

退職のこと

・解雇事由も含む、退職に関する事項

 

②に該当する規則については、就業規則内に定めないといけないルールではありません。しかしそのルールを設けて有効とするには、就業規則に定めることが必須とされています。

就業規則は作成・変更方法が法令で厳格に定められていますので、経営陣が勝手に追加したり変更したりすることができません。その性質を踏まえ、①の事項ほどではないものの労働者にとって重要な事項を、社内規程一般より一段厳しい就業規則の中で定めることを条件としているのです。

そして次のことが相対的必要記載事項とされています。

 

  • 退職金が受け取れる労働者の範囲、退職金の額や計算方法、支払い方法や支払い時期などの退職手当のこと
  • 賞与や各種手当などの臨時の賃金のこと
  • 作業用品や食費、社宅費など労働者に負ってもらう費用負担のこと
  • 安全衛生のこと
  • 職業訓練のこと
  • 災害補償や業務外での傷病扶助のこと
  • 表彰や制裁の種類やその程度のこと
  • その他すべての労働者に適用されるルール

 

後で規則を変更することも可能

就業規則は労働者にとっても会社にとっても重要なルールであるため慎重に内容を検討すべきです。とはいえ、最初に作った就業規則に永続的に拘束されるわけではありません。自社の状況に合わせ、必要に応じて変更することも考えましょう。

変更するときは「労働者の過半数で構成される労働組合」、これがないときは「労働者の過半数を代表する者」の意見を聴く必要があります。署名または記名押印が施された意見書を添付した上で所轄労働基準監督署長に対して届出をする必要があります。

 

労働時間について

就業規則への記載事項も多岐にわたりますが、まずは絶対的必要記載事項について理解を深めておきましょう。まずは「労働時間」に関する記載事項を、テンプレートとして使える例文とともに解説していきます。

労働時間に関しては、少なくとも次の事項を定める必要があります。

 

  • 始業時刻
  • 休憩時間
  • 終業時刻
  • 休日や休暇

※労働者を2組以上で交替勤務させるなら就業時転換に関することも定める。

 

就業規則にて一つひとつ条文を設ける必要はなく、各内容が盛り込まれていれば問題ありません。そこで次のような書き方ができます。

 

――――――――――――――――――――――――――――

 

第〇条 (勤務時間および休憩時間)

労働時間は1週間あたり40時間、1日あたり8時間とする。

2 始業および終業の時刻、休憩時間は、次のとおりとする。ただし、業務上の都合、その他やむを得ない事情によって、繰り上げまたは繰り下げることがある。

 

勤務時間

休憩時間

始業時刻:〇〇時〇〇分

〇〇時〇〇分~〇〇時〇〇分

終業時刻:〇〇時〇〇分

 

第〇条 (休日)

休日は、次の各号のとおりとする。

(1)土曜日および日曜日

(2)国民の祝日

(3)年末年始(12月〇日~1月〇日)

(4)その他会社が指定する日

2 業務の都合上、会社が必要と認める場合、前項の休日を別の日と振り替えることがある。

 

――――――――――――――――――――――――――――

 

週休2日とする場合は上の例のように定めれば良いです。なお、休みを増やすことに関しては労働基準法上の規制はありません。そのため各社の判断で週休3日としたりその他休暇を定めたりしても問題ありません。
その一方で、休日を減らすことには規制がかけられています。「1週間に少なくとも1回の休日」または「4週間の間に4日以上の休日」を与えることが義務になっています。曜日の指定まではありませんが、休日を極端に少なく設定して労働させることのないようにしましょう。

また、労働時間の上限についても労働基準法で定められています。原則として1週間あたり40時間まで、1日あたり8時間までと定められています。
さらに、1日6時間を超えて働かせる場合は45分以上、1日8時間を超えて働かせる場合は60分以上の休憩を与えることが義務となっていることにも注意しましょう。

 

賃金に関する記載

次に絶対的必要記載事項の「賃金」についてですが、次の内容を就業規則に記載しないといけません。

 

  • 賃金の額や計算方法
  • 賃金の支払い方法
  • 賃金の締日や支払い時期
  • 昇給に関すること

 

次のように記載する例が考えられます。

 

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第〇条 (基本給)

基本給は、本人の職務内容や技能等を考慮して決定する。

 

第〇条 (賃金の計算期間と支払日)

賃金は、毎月〇〇日に締め切り、翌月〇〇日に支払う。

2 前項の計算期間の中途で退職した労働者、または採用した労働者は、日割で計算して賃金を支払う。

 

第〇条 (賃金の支払方法)

賃金は、労働者に対して直接、通貨で、全額を支払う。

2 労働者が同意した場合、労働者本人が指定する金融機関の口座へ、振込によって賃金を支払う。

3 次に掲げるものは控除して、賃金を支払う。

(1)源泉所得税

(2)住民税

(3)健康保険、厚生年金保険、雇用保険の保険料のうち、被保険者の負担部分

 

第〇条 (昇給)

昇給は、勤務成績が良好な労働者について、毎年〇月〇日に行う。ただし、会社の業績が著しく低下している、その他やむを得ない事由がある場合、行わないことがある。

2 昇給の額は、勤務成績等を考慮して、各人ごとに決定する。

 

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正社員や契約社員、派遣社員なら月給制(1月ごとに固定の賃金が支払われる)、アルバイトなどであれば時給制(1時間単位での賃金額が定められ、労働時間に応じて賃金が支払われる)または日給制(1日あたりの賃金額が定められ、労働日数に応じて賃金が支払われる)となることが多いですが、これら支給方法に決まりはありませんので、各社自由に定めることができます。

ただし、「最低賃金法に規定されている最低賃金を下回らないこと」「毎月1回以上、一定の支払日を定めて賃金を支払うこと」は満たさないといけません。

賃金については就業規則本体と分離して別の「賃金規程」「給与規程」などとして設けることもできます。計算方法など記載すべき事項がたくさんあり、就業規則1本にまとめるより別途作った方が良いという場合は別の文書として作成することも検討しましょう。
なお、別の文書として作った場合でも就業規則の一部であることに変わりはありません。そのため労働基準監督署への届出は省略できません。

 

退職に関する記載

「退職」についてのルールも絶対的必要記載事項です。解雇事由についても含めて必ず就業規則に定めましょう。次のように記載する例が考えられます。

 

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第〇条 (定年)

定年は満70歳とし、定年に達した労働者は、その日の属する月の末日で退職する。

 

第〇条 (退職)

労働者が、次に掲げるいずれかの事由に該当する場合、退職とする。

(1)退職を申し出てから14日が経過したとき

(2)死亡したとき

(3)期間の定めのある労働者の場合、その期間が満了したとき

2 労働者が退職または解雇された場合は、使用期間、退職の事由、賃金、業務の種類等を記載した証明書を交付する。

第〇条 (解雇)

労働者が次に掲げるいずれかの事由に該当する場合、解雇することがある。

(1)勤務状況が著しく不良で、改善の見込みがない。

(2)業務能率が著しく不良で、向上の見込みがない。

(3)身体または精神上の障害により、業務に耐えられない。

(4)第〇条に定める懲戒解雇事由に該当する。

 

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定年として定める年齢は60歳を下回ることができませんが、逆に長く働けるよう定めることは可能です。上の例でも満70歳と定めています。

労働者からの申し出による退職については、「会社が承認したとき」と条件を定めても在席を強制することはできません。退職を申し出てから14日を経過すると退職することができます。

解雇に関しても必ず記載しないといけません。解雇事由の定めについて具体的な規制はありませんが、合理的理由がない、社会通念上相当と評価できない内容であるときはそれに該当したからといって解雇を言い渡すことはできません。権利を濫用したとして無効の扱いになるのです。

 

ここでは絶対的必要記載事項に絞って、ごく基本的な例文を紹介しました。実際に就業規則を作成するときはテンプレートをそのまま流用するのではなく、一つひとつの条文をよく考えて設けていく必要があります。労働問題に強い弁護士にもチェックしてもらいながら、適式に作成できているか、必要事項に漏れがないか、定めておくべき事項はないか、慎重に作成作業を進めていくようにしましょう。