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非正規雇用とは|正社員との違いや雇用の注意点・取組について解説

不当解雇

パートやアルバイト、派遣社員、契約社員などの非正規雇用も上手く活用することで、使用者である会社は人件費カット等のメリットを得ることができるでしょう。
しかし非正規雇用だからといって無条件に賃金を低く設定できるわけではありませんし、労働条件の設定にあたって気を付けないといけないこともたくさんあります。

そもそも「非正規雇用」とは具体的にどのような雇用を指しているのか、いわゆる「正社員」とは何が違うのか、まずはこの点について把握することから始めましょう。

 

「非正規雇用」とは

「非正規雇用」とは、その名の通り、正規雇用ではない場合の雇用を指しています。つまり、正社員以外のその他さまざまな雇用形態をまとめた呼び方である、ということもできるでしょう。

具体的には、期間の定めを設けて雇用をするケースであったり、フルタイムではない勤務時間を定めて雇用をするケースであったり、正社員とは違う働き方をしてもらうときの雇用が該当します。

ただし、非正規雇用労働者だからといって当然に正社員との間に待遇差を設けていいわけではありません。例えば労働時間の短さに対応して月給が少なくなるのは不当な扱いではありませんが、まったく同じ仕事・責任があるのに時間あたりの賃金が極端に小さいといった場合には不当な扱いをしていると評価される可能性が出てきます。

 

正規雇用(正社員)との違い

非正規雇用と正社員の違いは、さまざまな側面から見て取れます。大きく分けると、雇用期間・労働時間・仕事内容・賃金および待遇・キャリアパスといった点での違いを挙げられます。

  • 雇用期間・・・正社員は無期雇用が一般的で定年まで働くことができることが多い。一方の非正規雇用だと、有期雇用として契約期間が決まっていることが多い。契約期間は数ヶ月から数年とさまざまで更新されることもあるが、必ず更新される保証はない。
  • 労働時間・・・正社員はフルタイム勤務が基本。一方の非正規雇用は、パートやアルバイトのように短時間勤務となっているケースが多い。
  • 仕事内容・・・企業の中核を担う仕事や責任・裁量の大きい仕事を任されるのは正社員である割合が高い。非正規雇用は補助的な業務を担うケースが多いが、役職のない正社員との比較では仕事内容に大差がないことも多い。
  • 賃金・待遇面・・・一般的に正社員の方が賃金は高く、昇給や賞与などの待遇面も良い傾向にある。一方の非正規雇用は時給制や日給制とされていることが多く、待遇面で正社員に劣るケースが多い。
  • キャリアパス・・・正社員は昇進やキャリアアップの機会があり、長期的なキャリア形成を図ることができる。非正規雇用でも不可能ではないが、キャリアアップの機会が限られていることが多く、そのままだと長期的なキャリア形成が難しい傾向にある。

ここで取り上げたのは一般的な差や傾向の話です。詳しくは後述しますが、1つ押さえておきたい大事なポイントが「正規雇用(正社員)と非正規雇用の差だけを理由に格差を設けてはいけない」ということです。
「アルバイトだから最低賃金でいいだろう」「契約社員だからボーナスを与えなくていいだろう」などと考えてはいけません。

 

非正規雇用の種類

非正規雇用の主な種類としては、「契約社員」「派遣社員」「パートタイム労働者」が挙げられます。使用者(会社)が非正規雇用を活用するにあたってはそれぞれの特性を理解すること、そしてそれぞれに適用される法令を遵守することが大事です。

 

契約社員

「契約社員」は、会社と直接雇用契約を結ぶ非正規雇用の形態ですが、正社員とは異なり雇用期間が定められています。この期間は数ヶ月~数年と企業や職種、業務内容によっても異なります。
そして契約期間が満了すると雇用契約も終了となるのですが、会社によっては契約を更新して引き続き雇用を継続する場合もあります。

《 契約社員の特徴 》

  • 有期雇用(契約期間が決まっている点がもっとも大きな特徴)
  • 直接雇用(派遣社員とは異なり会社から直接雇用される)
  • 幅広い職種(事務職から専門職まで、さまざまな職種で契約社員として働くことができる)
  • 正社員登用の可能性もある(会社によるが、正社員登用制度を設けている場合もある)

《 契約社員の例 》

  • 一般事務の契約社員(1年契約で事務処理や電話対応などに対応。契約満了後、更新される場合もある。)
  • ITエンジニアの契約社員(3年間の契約でシステム開発プロジェクトに参画。プロジェクト終了後は別のプロジェクトにアサインされる場合もある。)
  • 大学事務の契約社員(産休・育休代替要員として1年間の契約で事務業務を担当。) など

 

派遣社員

「派遣社員」とは、派遣会社との間で雇用契約を結び、実際に働くのは派遣先の会社となる場合の非正規雇用の形態をいいます。派遣会社から給与の支払いを受け、派遣先の会社の指揮命令を受けて業務を行います。

《 派遣社員の特徴 》

  • 間接雇用(派遣会社に雇用され、派遣先の会社で働く。)
  • 派遣期間の制限(同じ派遣先で働くことができる期間は、原則として3年までと法律で定められている。)
  • 雇用管理は派遣会社が行う(給与の支払いや社会保険の加入手続きなどは派遣会社が行う。)

《 派遣社員の例 》

  • オフィスワークの派遣社員(派遣会社に登録し、紹介された会社にて一般事務やデータ入力などの業務を行う。)
  • イベントスタッフの派遣社員(イベント会場での受付や案内、販売などの業務を行う。)
  • 語学力を活かした派遣社員(外資系企業で通訳や翻訳などの業務を行う。) など

 

パートタイム労働者

「パートタイム労働者」は、1週間の所定労働時間が、同一の事業所に雇用される通常の労働者に比べて短い労働者を指します。「パート」や「アルバイト」などと呼ばれ、法的には両者に違いはありません。

一般的には、短時間勤務、曜日や時間帯の融通が利きやすい働き方として認識されています。

《 パートタイム労働者の特徴 》

  • 短時間勤務(フルタイム勤務の正社員と比べて、労働時間が短い。)
  • 柔軟な働き方(曜日や時間帯を自由に設定できる場合が多い。)
  • 幅広い年齢層(学生から主婦、シニアまで、幅広い年齢層の人が働いている。)

《 パートタイム労働者の例 》

  • スーパーのレジ係(週3日、1日4時間勤務でレジ業務を行う。)
  • カフェの店員(週5日、1日5時間勤務で接客などを行う。)
  • 事務のパート(週4日、1日6時間勤務でデータ入力を行う。) など

 

非正規雇用労働者の実情

厚生労働省が公開しているデータ(参照:https://www.mhlw.go.jp/content/001234734.pdf)によると、非正規雇用労働者の数は次のように推移していることがわかっています。

  • 非正規雇用労働者の数は若干の増加傾向が続いている(2023年では2,124万人)
  •  2023年における非正規雇用労働者の種類別の割合は次のとおり
    • パートやアルバイトで7割ほどを占めている
    • 次点で契約社員の1割強
    • 次に派遣社員の1割弱
  •  2023年における非正規雇用労働者の年齢別の割合は次のとおり
    • 「65歳以上」「55歳~65歳」「45歳~54歳」はそれぞれ約2割
    • 「35歳~44歳」「25歳~34歳」「15歳~24歳」はそれぞれ1割強
  • 正社員(正規雇用労働者)の数は2015年から増加を続けている(2023年では3,606万人)

また、非正規雇用労働者に関する課題としては大きく次の3つを挙げることができます。

  1. 正社員となる機会がないため不本意で非正規雇用をされている方の割合が、非正規雇用労働者全体の1割程度(196万人)いる。ただしこの割合は年々減少傾向にある。
  2. 正社員に比べて賃金が低い。時給換算で、正社員の平均賃金が2,014円(短時間労働の場合は1,900円)であるのに対し、非正規雇用労働者の平均賃金は1,407円(短時間労働の場合は1,392円)。
  3. 教育訓練が十分に実施されない。正社員に対して実施している会社でも非正規雇用労働者に対しては実施していないケースがあり、OJTについては比較的実施割合が高いものの、特にキャリアアップを想定したOFF-JTについては半数以下の割合でしか実施されていない。

 

会社が非正規雇用をするメリット

非正規雇用を行うことで会社が得られるメリットがあります。正社員の雇用・非正規雇用の検討にあたっては以下の利点を考慮すると良いでしょう。

 

人件費を抑えられる

人件費の増大は会社にとって大きな課題の一つですが、非正規雇用は正社員と比べて必要な人件費が小さい傾向にあり、賞与や退職金なども含めた総額で見ると、より顕著な差となります。
賃金やその他の待遇に不合理な差をつけてはいけませんが、仕事内容や責任の重さなどに合わせて適切な設定をしていれば問題はありません。

「今は単純作業に対応してくれる人材が欲しい」「フルタイムで働いてもらう必要はないがもう少し人手が欲しい」といったニーズがあるものの人件費の発生が課題となって悩んでいる場合は非正規雇用も考えてみましょう。

 

人員配置の柔軟性が向上する

ビジネス環境の変化が激しい現代において、会社は、必要な時に必要な人材を確保し、状況に応じて人員を調整することが求められます。

そして非正規雇用であれば「必要な時期・時間帯に必要な人数だけを雇用する」といった人員配置にも対応しやすいです。会社の繁閑や事業状況に合わせて人員を柔軟に調整することが可能になるため、人材の過不足による無駄を省き、効率的な経営を実現することができるでしょう。

例えば、新規事業の立ち上げや季節的な繁忙期など、一時的に人手が必要となる場合は非正規雇用を活用することが有効といえます。
正社員の場合だと長期的な雇用を前提とするため、人員の増減を柔軟に行うことが難しいですが、非正規雇用であればこのような状況変化にも柔軟に対応することができます。

 

即戦力が確保しやすい

会社が事業を推進していく上で必要なスキルや経験を持つ人材を迅速に確保することはとても重要なことです。

この点において、特に派遣社員を活用することで、必要なスキルや経験を持つ人材を即戦力として確保しやすいです。会社が自ら教育や研修に時間をかけることなく、必要な業務にすぐに対応できる人材を受け入れることができますので、業務効率の向上に繋げられるでしょう。

 

採用活動が効率化される

優秀な人材の獲得は会社の成長にとって不可欠です。

しかし、正社員の採用活動には募集から選考、内定までに、多くの時間と費用がかかります。非正規雇用の場合でも慎重に手続きを進めることが大事ではありますが、採用活動にかかる手間やコストを小さくできる可能性が高いです。これは、非正規雇用の募集期間が短く、選考プロセスも簡略化されている場合が多いことなどに由来します。

例えば、正社員の採用だと、大規模な会社説明会や複数回の面接などを実施するケースが多く、会社にとっても大きな負担となります。
しかし非正規雇用の採用であれば面接を一回のみで済ませたり書類選考を簡略化したりするケースも多く、それにより起こり得るリスクも正社員採用に比べて小さいです。こうして会社は限られた時間と費用で、必要な人材を迅速に確保することができます。

 

多様な人材を活用できる

多様な人材の確保は、組織の活性化やイノベーションの創出に繋がる重要な要素です。

「働きたいという意欲もあり能力もあるがフルタイムを前提とする正社員だとライフスタイルに合わない」といった方も社会にはいます。例えば子育てや介護などに追われている方だとなかなかフルタイム勤務が難しかったりします。
しかし非正規雇用として柔軟な受け入れ態勢を整えることで、正社員採用に応募してくる人材とは異なる属性の人材も社内に取り入れやすくなります。

これにより新たな視点が生まれ、新しいアイデアが創出される可能性なども出てきます。

 

雇用リスクを軽減できる

経済状況の変化や業界の競争激化など、事業者を取り巻く環境は常に変化しています。正社員の場合は、解雇が厳しく制限されているため、会社は雇用維持のために大きな負担を負うことになるでしょう。

一方、雇用期間を初めから定めておけば、景気変動などによる業績悪化のリスクを軽減することができます。会社は事業の状況に合わせて雇用を調整しやすくなり、経営の安定化を図ることができるでしょう。

また、景気変動とは別に「期待していた仕事ぶりを発揮してくれない」「懲戒解雇できるほどではないが勤務態度が悪く他の従業員に悪影響を与えている」といった問題が起こることもあります。
このようなリスクを事前に把握することは難しいですが、試用期間の定めを設ける、あるいは非正規雇用から始めることによってリスクを回避しやすくなります。

 

会社が非正規雇用をするデメリット

非正規雇用は人件費抑制や人員配置の柔軟性などの面で多くのメリットをもたらしますが、同時にいくつかのデメリットも存在します。正社員を採用するケースと比較しながら、それぞれのデメリットを詳しく見ていきましょう。

 

人材育成が難しい

非正規雇用は、雇用期間が限定されている場合も多いため、会社側としては長期的な視点で人材育成を行うことが難しいという側面があります。

正社員であれば時間をかけて育成し、将来的に企業の中核を担う人材へと成長させることを期待できますが、非正規雇用だと契約期間満了とともに離職してしまう可能性があるからです。そのため育成コストを回収できないリスクがあります。

 

従業員のモチベーションを維持しにくい

非正規雇用をされている従業員は、正社員と比べて賃金や福利厚生などの待遇面で差がある場合が多く、これが原因となりモチベーションの維持・向上が難しいケースがあります。

また、賃金などに大きな差がなくても、「今後正社員になれるかわからない」「昇進の機会があるのかわからない」といった中で働き続けていても仕事に対する意欲・向上心を維持するのは難しいでしょう。

 

担当できる業務が限られる

非正規雇用は、正社員と比べて担当できる業務範囲が限定されるという事実上の問題があります。法律で規制されているわけではありませんが、「離職するかもしれない」と思いながら重い責任のある仕事を任せることはできないでしょう。

会社の機密情報に触れる機会がある仕事を任せることに躊躇することもあるでしょうし、重要な意思決定に関わるような仕事もなかなか任せられません。

そのため非正規雇用の従業員に対しては、結局補助的な業務や定型的な業務を任せることになり、当該人材の能力を十分に活用できないという難点も出てきます。

 

労務管理の複雑化

雇用形態や労働条件が多様化すると、同じ働き方をする正社員だけがいる場合に比べて労務管理が複雑化します。

正社員とは異なる労働時間管理や社会保険の加入手続きなど、個別の対応が必要となるケースが増え、人事担当者の負担増に繋がる可能性があります。

 

会社に求められる対応・取組

非正規雇用を行う会社がまず意識すべきは「同一労働同一賃金」の原則です。

これは、「同じ労働内容に対しては同じ賃金の支払いを要する。違いがあるならその違いに応じた賃金の支払いを要する。」という考え方を意味しています。

正社員と非正規雇用労働者の間にある待遇差が不合理なものであってはならず、もし待遇差を設けるならきちんと説明ができるようにしないといけません。もちろん、「契約社員だから」「アルバイトだから」といった言い分は正当な理由にはなりません。
各待遇の性質や目的に照らし、職務内容や転勤等の有無、その他責任の違いなどから具体的に理由を説明できないといけません。

基本給や賞与、食堂の利用や休憩室の利用、各種手当、教育訓練の実施など、正社員との間で待遇差を設けているのなら改めて見直してみましょう。「客観的にみて合理的な差とはいえないかも」と思われるのならその内容を是正する必要があります。

判断に悩むときは弁護士もご活用ください。東京、銀座には弁護士法人エースもおりますので、待遇差の是正・適切な労働条件の設定について考えるときは私たちにご相談いただければと思います。