従業員を雇用する場合、法律に従い適切な安全確保を図らなければなりません。
万が一労働災害が発生したときには被害を受けた方への補償を行いつつも、いき過ぎた請求や要求に対しては厳正に対応する姿勢も必要です。
企業は取るべき労災事故への対応、そして慰謝料などの損害賠償請求を受けたときはどう対応すべきか、ここで解説します。
従業員を雇用する企業は、ただ仕事と給与を与えれば良いのではありません。法律上、安全配慮義務が課されています。
(労働者の安全への配慮)
第五条 使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。
雇用契約や就業規則で定めたルールとは別に強制的に適用されるルールがいくつかあり、その1つとして安全配慮義務が存在しています。そのため従業員が安全に働ける環境を整え、事故が発生しないように対策を講じること、心身の不調があったときの対応なども企業の義務なのです。
職場の安全に配慮した取り組みをしていても、完全に労働災害を防ぐことは難しいです。そこで重機を扱う現場やマシンを扱う現場、薬物を扱う現場など、身体に危険が及び得ることが予測できる職場はもちろん、オフィスでパソコンを使った作業を主たる業務として行う職場でも、労災事故発生後の流れについて把握しておくべきです。
事故が発生すると、被害を受けた従業員は次の給付を求め、労災保険給付に向けて申請を行います。
なお、この申請は法律上認められた従業員の権利を行使したに過ぎず、企業が直接支払うものでもありません。そのためこの申請をもって「従業員と対立した」「トラブルになった」と捉えるべきではありません。
申請後、労働基準監督署長による調査が行われます。そして労災として認定されると保険給付が受けられます。
他方で労災の認定がされなかった場合は不支給となりますが、申請者は労働局に対して審査請求をすることができます。このときは再度審査が行われます。
企業は労災認定の審査にあたり報告等を求められることがありますので、その際は真摯に対応しましょう。
労災保険からの給付で損害のすべてがカバーできれば、金銭的な問題は解決します。しかしながら労災保険でカバーしきれなかった部分があるとき、従業員としては直接企業に賠償をしてもらう必要があります。また、慰謝料に関しては労災保険からの支給には含まれませんので、身体的な苦痛に対する賠償責任を追及されることもあるでしょう。
労災事故に関して企業が取るべき対応ですが、まず大前提として「労災保険への加入」をしないといけません。従業員を雇用するすべての事業者に加入義務が課されていますので、加入をしていないという場合はすぐに加入手続を進めましょう。
そのうえで事故発生後は、「迅速に対応を進めること」「事故について隠さないこと」「労災申請に関して協力をすること」に留意しましょう。
迅速な対応は被害者救済のためにも重要ですし、企業イメージを悪くさせないためにも大切なことです。「事故があったとき、あの会社はなかなか動いてくれなかった」などと悪評が広まると企業の印象は悪くなってしまいます。
また、労災の事実を隠す行為は絶対にしてはいけません。犯罪として処罰されることもありますし、行政上のペナルティを受けることもあります。また、隠ぺいの事実が発覚することで企業自身も甚大な損失を受ける危険性があります。
そのため隠すのではなく、むしろ協力して保険給付への調査に協力するようにしましょう。
上記の安全配慮義務を尽くしていないと判断された場合、従業員から賠償責任を追及されます。
損害賠償請求を受けたときの対応は慎重に進めましょう。取るべき対応は状況により異なります。安全配慮義務を果たしており企業側に責任がないと主張して請求を退けさせるのか、そのまま支払いに応じるのか、あるいは支払い額の減額を求めるのか、いくつかのパターンが考えられます。
もし企業側に問題があったとしても無制限に賠償金を支払うべきではありません。請求内容をよく確認し、金額の妥当性を評価するためにも事実関係の確認や調査を進める必要があるでしょう。訴訟にまで発展することがありますし、交渉にも法的な知見が必要です。今後の社会的イメージにも大きく影響する可能性があるため、労働問題を専門的に取り扱っている弁護士に相談することをおすすめします。