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残業代の請求をされたときの会社側の対応| 請求後に確認すべきポイントとは

残業代請求

「残業代をめぐるトラブル」は労使間で起こりやすい問題の1つです。会社側が正しい金額を支払ってくれないことが発端となることもあれば、従業員側による不当な請求が発端になることもあります。

いずれにしろ会社側は従業員からの請求に対して無視をすべきではなく、適切なアクションを起こさなくてはなりません。請求を受けた会社側がまず何をすべきか、そして、具体的にどのような点をチェックすることが大事なのかを当記事で説明していきます。

 

残業代の請求をされたときの対応

労働問題について労働基準監督署(労基署)が対応することもあるのですが、賃金不払いに関して労基署が取り扱った件数は、令和4年の間だけでも2万件を超えています。対象労働者の数は約18万人、金額は120億円を超えています。

参照:厚生労働省「賃金不払が疑われる事業場に対する監督指導結果(令和4年)」

 

もし残業代を正しく支払っていない場合、労基署から指導等の処分を受けることがありますし、従業員が弁護士を介して請求をしてくることも考えられます。

このような場面において会社側はどのように対応すべきでしょうか。少なくとも「無視する」という選択を取るべきではなく、適切な対応方法を考える必要があるでしょう。

 

弁護士に相談する

請求内容に応じて具体的な対応方法は異なりますが、まず検討したいのは「弁護士への相談」です。

早めに相談・対応の依頼をしておくことで、自社が不利な立場に立たされる事態を避けやすくなります。弁護士に状況を詳細に伝えることで、今後従業員・元従業員に対してどのように対応すべきか、どのような行為を避けるべきかがはっきりさせられます。

 

支払い義務の有無を確認する

残業代の請求をスルーすべきではありませんが、これは「請求された金額は支払うべき」という意味ではありません。必要以上に大きなトラブルに発展させないようすぐに対応することが重要という意味であり、場合によっては支払わないという選択を取ることもあります。

従業員・元従業員が計算を正しくできていない、あるいは残業代の発生について誤った認識を持っているかもしれません。このような可能性も鑑みて、会社側は請求内容の精査を行う必要があります。

 

残業代請求を受けたときにチェックすべきポイント

残業代請求を受けたときは、次の点をチェックしていきましょう。

 

  • 残業代の発生する人物かどうか
  • 残業が本当に行われていたか
  • 請求額が過大になっていないか
  • 請求権の消滅時効が完成していないか

 

残業代の発生する人物かどうか

あらゆる人物に残業代が発生するわけではありません。例えば会社代表者など、経営陣には残業代は発生しません。

そこで残業代発生の問題において一般的な従業員と役員の狭間に位置している「管理職」がよく問題となります。

労働基準法のいう「管理監督者」に該当すれば残業代は発生しなくなるのですが、その判断は肩書で決まるわけではありません。実態として、経営者と一体的な地位にあるといえるかどうかがポイントになります。

そのため「店長だから残業代の支払いはない」などと一概に判断することはできません。

 

請求額が過大になっていないか

残業代の計算は複雑です。請求者の提示している金額が間違った計算方法によるものかもしれません。そこで支払う意思がある場合でもまずは金額の正確性を疑い、自社でも残業代の計算を行ってみましょう。

残業代に関わる割増賃金率については近年法改正がありましたので、知識のアップデートができていない場合は弁護士など専門家の力も借りながら計算を進めていきましょう。

なお、請求内容の間違いを指摘するときには雇用契約書やタイムカードなどの客観的な証拠を備え、計算の方法を示して何が間違っていたのかを提示すると良いでしょう。何も伝えず請求額より少なく支払っても、納得が得られず紛争が長引いてしまうおそれがあります。

 

残業代請求権の消滅時効が完成していないか

残業代が発生する従業員であって、確かに未払いの残業代があったとしても、その請求権について消滅時効が完成している可能性もあります。その場合は会社側が権利の消滅を主張することができます。

※未払いの残業代を支払うことが違法になるわけではない。支払うことも可能。

消滅時効の期間は、残業代などの賃金について請求できるようになった日、つまり給料日から「3年間」です。従来「2年間」の消滅時効期間が設けられていましたが、これが「5年間」へと延ばされ、経過措置として現在3年間という期間が適用されています。

そのため消滅時効期間を超えるほど昔の残業代について請求をされても支払いを拒むことができます。一方で、この期間を超えていない場合は、すでに退職した従業員からも正当に請求を受けることはあります。

 

残業代請求の放置は危険

前述の通り、残業代の請求を受けてこれを放置すべきではありません。

「無視していればいつか諦めるだろう」などと考えていると、労基署から指摘を受けるなど、行政上の処分を受ける可能性があります。従業員が弁護士に依頼して訴訟を提起されるリスクもあります。

訴訟で未払い賃金の存在が認められると、本来支払うべき金額に加えて「付加金(悪質な残業代未払いに対して裁判所がペナルティとして課す金銭)」の支払いを命じられることがありますし、遅くなるなど「遅延損害金」が積み重なってきます。

そのため放置ではなく何らかの対応を進めていくよう心がけましょう。