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残業代を払ってほしい従業員は何をすればいい? 請求の方法や事前に知っておくべきポイント

残業代請求

賃金不払いの問題については毎年1,000件以上発生しており、関係する従業員の数は数万人以上に上ります。そのすべてについて従業員の望む通りの結果にはなっていませんが、支払うよう求めて争えば回収できることも多いです。

そのため残業代未払いの問題に関しても泣き寝入りする必要はありません。まずは当記事で「どうやって残業代は請求するのか」「請求にあたってのポイント」を整理しておきましょう。

 

残業代の請求をする方法

残業代が十分に受け取れていないと考えるとき、まずは「請求できる金額の計算」を行いましょう。何時間働いたのか、どの時間帯に働いたのか、休日の労働はあったのか、これらを整理した上で、割増賃金率を適用して正しい計算を行います。金額に誤りが含まれる可能性があるため、専門家に計算してもらうことも検討しましょう。

その後請求を行う方法としては、次に挙げるようにいくつかの手段があります。

 

会社に支払ってもらうよう伝える

特別な手続・制度を利用することなく、直接会社に対して「未払いの残業代〇〇万円を支払ってほしい」と伝える方法もある。

ただし、まともに取り合ってくれない可能性もある上、対応をいつまでも待っていたのでは消滅時効により請求権が消滅する可能性もある。

労働基準監督署に申告する

労働基準監督署に相談して解決するケースもある。労働基準監督署は代理で請求をしてくれることはないが、労働問題について是正を求める処分を行う。労働基準監督署からの処分を受けて会社側が支払ってくれることもある。

弁護士に請求対応を依頼する

弁護士に頼めば未払い残業代の請求を代理で行ってくれる。相談対応や残業代の計算、訴訟対応まで、請求金額問わず一貫して対応してもらえる。

会社との交渉から代理で進められるためストレスが軽減される上、会社側による真剣な対応も期待できる。

 

手間やコスト、請求が成功する可能性の高さなどを考慮して方法を選択しましょう。

 

残業代を請求する前に知っておきたいポイント

残業代を請求する前に、次の点には注意しましょう。

 

  • 割増賃金率を正しく適用して計算する
  • 証拠を準備しておく
  • 消滅時効が完成しないようにする

 

各注意点について説明します。

 

割増賃金率を正しく適用して計算する

残業代を計算するときは、「法定労働時間が何時間か」を把握しないといけません。会社が独自に定める労働時間ではなく「1日8時間」「週40時間」という労働基準法所定の労働時間を超えるかどうかがポイントです。

そして法定労働時間を超えた残業については法令上、割増賃金率が適用されることになっており、月当たりの残業が60時間以内かどうか、深夜労働(22時~翌朝5時)・休日労働の有無によっても適用される割合は異なります。

いくつか例を以下に示します。

 

《ケース1:時間外労働を80時間行った》

適用される割増賃金率

  • 60時間については「25%」
  • 60時間を超えた20時間については「50%」

 

《ケース2:50時間の時間外労働のうち20時間は深夜労働》

適用される割増賃金率

  • 30時間については「25%」
  • 20時間については「50%」

 

《ケース3:80時間の時間外労働のうち20時間は深夜労働。深夜労働のうち10時間は60時間を超えた部分と重複している》

適用される割増賃金率

  • 60時間については「25%」
  • 60時間を超えた10時間については「50%」
  • 60時間を超えた深夜労働10時間については「75%」

 

証拠を準備しておく

従業員自身が残業代の未払いを確信しているだけだと、訴訟において支払いを認めてもらうのは困難です。そこで一切の証拠なく支払いを請求しても会社側が応じない可能性も高くなります。

そのため証拠の準備も忘れないようにしましょう。

さまざまな資料が証拠として使えますが、①残業時間を示す証拠と②給料の計算について示す証拠は用意しておきましょう。①についてはタイムカードや勤怠管理システムのデータなどが使えます。②については雇用契約書や労働条件通知書、賃金規程などが使えます。

「それぞれ1つずつあれば良い」ということではありません。できるだけ多くの証拠を備えておきましょう。

 

消滅時効が完成しないようにする

正当な権利であっても、その権利が行使できるようになったときから一定期間が経過すると、時効により消滅してしまいます。そのため一定期間を過ぎてからだと、請求を行っても会社側は支払いを拒絶することができてしまいます。

この期間は本来支払われるはずであった給料日から「3年間」です。この間に請求を行う必要があるのですが、この期間の進行を止める方法がいくつかあります。

例えば「訴訟の提起」です。裁判上で請求権が認められると消滅時効が更新され、その時点から再び3年間が経過するまで権利を主張できるようになります。訴訟の手続中に消滅時効が完成することもありません(この効果を「完成猶予」と呼ぶ)。

訴訟を提起しなくても債務についての「承認」が会社側から得られれば消滅時効は更新されます。

また、「催告をしたとき」や、未払い残業代の支払いについて「協議をしたいと書面で伝えたとき」にも一時的に消滅時効の完成を防ぐことができます。これらの手段も活用しつつ、残業代請求の手続を進めていきます。

 

残業代の請求には早めに取り組もう

残業代の請求後、会社がすぐに応じてくれれば良いですが、実際にはそう上手くいかないケースが多いです。

残業代の計算を行い、証拠を準備し、交渉や訴訟などの手続を進めていると、数ヶ月以上、場合によっては1年を超えてしまうこともあります。

想定より長い期間を要することもありますので、「そのうち残業代を請求しよう」などとのんびり過ごすのではなく、できれば早めの対応に取り掛かるようにしましょう。