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有給休暇の取得でよくあるトラブルと企業が取るべき対応について

残業代請求

有給休暇は会社がサービスで与えるものではなく、従業員に当然認められる権利です。

原則として会社側が取得方法等について規制をかけることは許されず、従業員の自由に取得させなくてはなりません。

しかしながらこの基本的なルールが厳守されず、従業員との間でトラブルが起こることも珍しくありません。当記事で、有給休暇に関してよくあるトラブルと企業としてどのように対応すべきかを解説していきます。今一度有給休暇について理解を深めておきましょう。

 

有給休暇は従業員が自由に取れるもの

有給休暇は「仕事を休んでも賃金がもらえる休暇」のことです。

疲労を回復してもらって労働力の維持培養を図ること、また、ゆとりのある暮らしの実現を図ることを目的とした制度で、「有休」や「年休」などと呼ばれることもあります。

有給休暇の付与については、使用者である会社側に認められる裁量はほとんどありません。従業員が好きなように消化していくことが可能です。その他、どの会社であっても次に挙げる基本的なルールが共通で適用されます。

 

《 有給休暇の基本ルール 》

 

取得要件

次のすべてを満たす従業員。

①週1日以上または年間48日以上勤めている

②雇用日から6ヶ月以上継続して勤めている

③決められた労働日数の8割以上は出勤している

付与日数

雇用からの勤務年数に対応する有給休暇の付与日数は次の通り。

6ヶ月:10日

1年半:11日

2年半:12日

3年半:14日

4年半:16日

5年半:18日

6年半以上:20日

取得方法

原則として1日単位で取得する。

例外:

・半日単位での取得(従業員の希望に基づくこと、使用者が同意していること、1日単位取得の阻害にならないことが条件)。
・時間単位での取得(従業員の希望に基づくこと、年に5日の限度を守ることが条件)。

 

よくあるトラブル

有給休暇の取得等について、従業員と会社が揉めることがあります。どのようなトラブルがよくあるのか、そのトラブルに対してどう対応すべきなのかを説明していきます。

 

パートやアルバイトに有給休暇を与えない

有給休暇に働き方の違いは影響しません。正社員だけでなく、パートやアルバイトの方であっても同じように取得することができます。

にもかかわらず、「パートやアルバイトであることを理由に、会社が有給の消化について認めてくれない」と従業員が悩んでいるケースも見られます。

もし働き方による差をつけてしまっているのであれば、すぐに是正しなければなりません。有給休暇を与える・与えないだけの問題でなく、取得の方法や付与日数に関しても差を付けてはいけません。

 

有給休暇の取得者に不利益を与える

「有給休暇の取得を申し出たら評価が下がった」などと有給休暇取得者が不利益を受けるケースもあります。しかしこのような取り扱いは法令で禁じられています。

 

使用者は、・・・有給休暇を取得した労働者に対して、賃金の減額その他不利益な取扱いをしないようにしなければならない。

引用:中央労働災害防止協会 労働基準法附則第136条

 

不利益な取り扱いの内容については限定されていません。賃金の減額などわかりやすい不利益のほか、嫌がらせのような事実上の行為についても法令違反に該当し得ます。従業員に認められる法律上の権利であることを踏まえ、取得に際して不当な処分を与えることのないようにしましょう。

 

取得日数に制限をかけてしまう

「6ヶ月間勤務したのに、会社から『あなたが使える有給は5日まで』と制限された」、あるいは「半年後の退職を申し出たら、本来付与される日数の半分しか与えられなかった」といった事案で従業員が悩むケースもあります。

当然、会社側にこのような裁量は認められません。

残り半年しか勤務しないから半分の有給休暇しか与えない、といった扱いは法令に反しています。勤続年数に応じて有給休暇は発生しますので、会社側から日数について調整を加えるような行為、取得を制限するような言動は避けましょう。

 

取得方法に制限をかけてしまう

取得日数だけでなく、取得方法についても制限をかけてはいけません。

「従業員が前日に突然有給休暇の取得を請求してきた」「理由もなく有給を使いたいと言ってきた」という状況であっても、会社側にこれを拒否する権利はありません。有給休暇を認めなければ違法となります。

仮に就業規則で「有給休暇は1週間前に請求しないといけない」と定めてあっても、当然にその制限が有効になることはありません。

取得時期の変更は、会社側に時季変更権の行使という形で一部認められますが、これは「事業の正常な運営が妨げられてしまう」ことを前提に限定的に認められるものです。単に前日の取得請求であることを理由に時季変更権は行使できず、相当の理由をもって運営の妨げになることが説明できなければなりません。

 

退職直前の全部消化

退職時期について会社側がルールを設けているケースもありますが、原則として14日前に申し出れば労働者は会社を辞めることができます。

では半月後に辞めたいと申し出た従業員が「残っている有給休暇をすべて使ってから辞めたい」と言ってきた場合、どう対応すべきでしょうか。

この場合でも会社側は有給休暇の全部消化について認めなくてはなりません。

そしてこのときは時季変更権の行使ができません。時季変更権は有給休暇の取得日を別日に変えてもらうための権利ですが、退職を申し出た従業員については別日を設定する余地がないためです。そこで請求を受けた通りに付与をしないといけません。

どうしても困るという場合、会社側としては、退職日の延ばしてもらうための“お願い”をするなどの対応を検討しましょう。あくまで対等な交渉に過ぎませんので、従業員側が拒絶すればそれ以上無理強いすることはできません。

 

従業員が有給休暇を消化してくれない

2019年4月以降、従業員による請求がなくても、1年間のうち5日は有給休暇を取得させなくてはならないというルールになっています。

そのため自主的に取得を求めてこない従業員がいるときでもそのまま放置してはいけません。少なくとも5日は取得してもらわないと違法になってしまいます。

会社側は、取得すべき5日を指定するだけでなく、実際に取得をさせないといけません。形だけ取得するよう求めても有効な対策とはなりませんので注意しましょう。確実に5日間は取得してもらえるような体制づくりが必要です。

 

有給休暇の消化状況が従業員間で大きく異なる

有給休暇の取得を良く思わない風潮が残る会社も数多く存在しています。そんな中法改正が進み、近年、有給休暇を自由に取得させるべきとの流れが急速に進んできています。

そこで同じ会社内でも、積極的に有給消化をする従業員とほとんど消化しない従業員が在籍する状況が見られます。

その状況自体違法ということではありません。しかし有給消化をしない従業員が不満を口にすることもあり、さらには「あいつは有給を使っているから評価を下げるべきだ」などと不当な要求をしてくるケースもあります。

経営者、管理職に就く人物がそのような考え方を持っているケースもあるでしょう。しかしながら、上述の通り有給休暇の取得に関して不利益な取り扱いをすることは法令上禁じられています。

有給消化をしない人の査定をプラスにしたり消化をした人の査定をマイナスにしたりするのではなく、全員で有給休暇を取る流れを作り、全体の不公平感をなくすようにすべきです。

 

有給休暇が取得しやすい環境づくりが求められる

会社側には、従業員から有給休暇の取得請求を受けたときに拒絶しないことはもちろん、“有給休暇が取得しやすい環境づくり”が求められています。

従業員間での不満、不公平感をなくすにはどうすれば良いのか、どうすれば全員が平等に有給休暇を取得できるようになるのかを考えて、体制を整備していくべきです。

各々が気を遣ってしまいなかなか取得できないという場合は、繁忙期を避けて計画的に有給休暇の付与を行うというやり方も検討しましょう。労働基準法でも次のように計画的な付与を認めています。

 

使用者は、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との書面による協定により、第一項から第三項までの規定による有給休暇を与える時季に関する定めをしたときは、これらの規定による有給休暇の日数のうち五日を超える部分については、前項の規定にかかわらず、その定めにより有給休暇を与えることができる。

引用:e-Gov法令検索 労働基準法第39条6項

 

労働組合または労働者の過半数を代表する者との協定を経て取得日を定めれば、半強制的に有給休暇を取得してもらうことが可能です。

※定めることができるのは“有給休暇の5日を超える部分”に限られる。

指定の日は職場を閉めてしまうなどの対策を取れば、有給休暇を取得してくれないことによる違法状態も避けやすくなるでしょう。

こうした仕組みづくりに加え従業員に対する啓蒙も行いましょう。有給休暇の取得を悪いことのように認識している従業員もいるかもしれませんので、その場合は有給休暇のルールとその趣旨について説明し、認識を改めてもらうことが必要です。