「社内のルールに従わない」「横領をしている」など、問題ある社員がいるときでも、常に会社側が自由に解雇できるわけではありません。法令上従業員は手厚く保護されており、解雇を強行した場合は会社側に違法行為が認められるおそれがあります。
しかし適切な手続を取ればこうした危険も起こりにくくなります。退職勧奨や懲戒処分のことなど、問題社員に辞めてもらいたいときは最低限の知識を備えてから取り組むようにしましょう。
「正当な理由もないのに欠勤を繰り返す」「部下や同僚に対してハラスメントをしている」「個人情報を勝手に持ち出した」「会社のお金を横領した」など、問題行動を起こす従業員に対しては相応の処分を検討する必要があります。
放置をしていると自社に大きな損失が生じるおそれがありますし、問題が内部にとどまらず取引先や消費者にまで波及する危険性もあります。
そこで懲戒処分を下す、あるいは退職勧奨なども視野に対応を考えていきましょう。
懲戒処分には次の7種類があります。問題社員の起こした行動、結果とのバランスを考慮して選択をしましょう。
戒告 (かいこく) | 従業員に対して口頭・書面で注意を行うこと。 懲戒処分の中でも軽い処分。 |
---|---|
譴責 (けんせき) | 始末書を書かせる処分のこと。 戒告と並んで比較的軽い処分。戒告よりは悪質な場合に課すケースが多い。 |
減給 | 給料を一部差し引く処分のこと。 戒告や譴責より従業員の反省を促せるが、法令上、減給できる額の上限が決まっているため大半を差し引くような処分はできない。 |
出勤停止 | 出社・働くことを禁ずる処分のこと。 出勤停止中は給料が発生しないことから、長い期間の出勤を禁ずることで高い減給効果を得ることもできる。ただし従業員による問題行動の程度とのバランスを考慮して期間を設定する必要がある。 |
降格 | 役職を剥奪したり給与等級を引き下げたりといった処分のこと。 処分後も長く影響を受けることになる重い処分であるため、降格ができる要件についてはあらかじめ定めておくべき。 |
諭旨解雇 | 退職を促すという処分のこと。 従業員自ら退職することを求めるため強制の処分ではないが、退職に応じない場合は懲戒解雇を予定していることが多い。一応穏便に関係性を断つ方向を目指すことになり、退職金も発生する。 |
懲戒解雇 | 強制的に解雇すること。 もっとも重い懲戒処分で、非常に悪質な行為をはたらいた問題社員に対して適用される。 |
懲戒処分とは別に、「退職勧奨」を行うという選択肢もあります。
懲戒処分における会社を辞めてもらうという意味では「諭旨解雇」「懲戒解雇」とも共通点もありますが、退職勧奨については懲戒処分でもなく、形式上はただのお願いです。それも実質強制となるようなお願いとなってはいけません。従業員の自由な判断に委ねる必要があります。
問題社員に会社を辞めてもらうなら、退職勧奨あるいは懲戒処分としての諭旨解雇などの手段があります。
退職勧奨と諭旨解雇はいずれも解雇を強制するものではありませんが、ペナルティであることが前提である諭旨解雇とは異なり、退職勧奨はいつでも行うことができます。例えば人件費を削減するために退職を求める場合などです。
一方の諭旨解雇は懲戒処分であるため、会社側にそのペナルティを課す正当性が求められます。そこで、問題行動を起こしておりそれが懲戒処分を課すほど重大なものであれば、諭旨解雇や懲戒解雇を言い渡すことができますし、退職勧奨を行うこともできます。しかし問題行動がないときは懲戒処分としての諭旨解雇を課すことはできず、退職勧奨ができるにとどまります。
退職勧奨は懲戒処分ではないものの、安易に取るべき手段ではありません。次のような手順を踏んで慎重に手続を進めていきましょう。
退職勧奨により退職をしてもらう場合、あくまで従業員側の任意に基づいて決断が下されなければなりません。この点十分留意して手続を進めていくようにしましょう。
懲戒処分として解雇を求める場合は、まず会社側に正当な理由が必要です。
「客観的に合理的な理由があること」「社会通念上相当であること」、これらがない場合は権利濫用だとして無効になることがあります。
また前提として就業規則等で解雇ができる要件について明示しておくべきです。解雇相当の事由を挙げておき、その事由に該当することを理由に解雇を言い渡すのです。とはいえいきなり解雇を強制させるのではなく、本人と話し合って弁明する機会を設けてあげるなど、特に慎重に進めていかなければなりません。
もう1つ、解雇の場合は解雇を言い渡す時期にも注意が必要です。
法令上、原則として即日解雇を言い渡すのではなく予告期間を設けなくてはなりません。
使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、少くとも三十日前にその予告をしなければならない。三十日前に予告をしない使用者は、三十日分以上の平均賃金を支払わなければならない。但し、天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となつた場合又は労働者の責に帰すべき事由に基いて解雇する場合においては、この限りでない。
そこで解雇日までに30日以上の猶予を設けること、または30日に不足する日数分の賃金を支払うことが必要になります。
以上を踏まえ、問題社員との間でトラブルが起こらないように手続を進めていきましょう